大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和50年(ワ)2501号 判決 1979年2月26日

原告 小島ヒラ子

<ほか三名>

原告 日本電信電話公社

右代表者総裁 秋草篤二

右指定代理人 大野玉吉

<ほか二名>

右原告ら五名訴訟代理人弁護士 草野勝彦

同 鮎澤多俊

同訴訟代理人亡入谷規一復代理人弁護士 入谷正章

被告 株式会社田中組

右代表者代表取締役 田中元治

被告 夏目幸雄

右被告ら訴訟代理人弁護士 泉昭雄

主文

一  被告らは各自、原告小島ヒラ子に対し金三〇万八七六七円、原告小島法康、同小島直子及び同丸山美保子に対しそれぞれ金二四三万一二三六円及び右各金員に対する昭和四八年九月三日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告日本電信電話公社に対し金三四九万八三六〇円及びこれに対する昭和五〇年一二月四日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を被告らの、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告小島ヒラ子に対し金五五三万六一二六円、原告小島法康、同小島直子、同丸山美保子に対しそれぞれ金七〇九万九七三七円、及びこれら各金員に対する昭和四八年九月三日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは各自、原告日本電信電話公社に対し金六〇七万〇六〇〇円及びこれに対する昭和五〇年一二月四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外亡小島益男(以下「亡益男」という。)は次の交通事故によって死亡した。

(一) 日時 昭和四八年九月三日午後四時五〇分ころ

(二) 発生地 愛知県新城市須長字京早稲地内道路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車 被告株式会社田中組保有の普通貨物自動車(三河一一な一三六二号、以下「被告車」という。)

運転者 被告夏目幸雄

(四) 被害車 軽自動車(六名古屋た一〇〇一号、以下「原告車」という。)

被害者 右自動車を運転中の亡益男

(五) 事故の態様 被告夏目が、被告車を運転して新城市東上方面から鳳来町出沢方面に向って走行中、本件事故現場において、反対方向から走行して来た亡益男運転の原告車と衝突し、亡益男は頸椎骨折及び頭部挫傷の傷害を負い即死した。

2  責任原因

(一) 本件事故現場は、道路の幅員が約四メートル、衝突地点付近で幅員が約五・三メートルと狭く、道路が被告車から見て右方にカーブしているうえ、事故当時道路右側は桑畑になっていて、右カーブ付近の路上には繁茂した桑の葉が覆いかぶさっている状態で、被告車の前方の見透しを妨げていたのであるから、自動車の運転手としては、対向車との出合頭の衝突を避けるため、減速するとともに、できる限り道路の左側に寄って走行すべき義務があるのに、被告夏目はこのような義務を怠たり、被告車を時速四〇キロメートルの速度で道路中央付近を走行させ、よって本件事故を惹起した。

(二) 被告会社は被告車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたものである。

3  損害

(一) 亡益男に生じた損害

(1) 積極損害

イ 葬儀費用 四三万一六〇〇円

ロ 医療関係費用 四〇〇〇円

(2) 逸失利益

イ 給与に関する逸失利益

亡益男は、事故当時五三歳五月で、原告日本電信電話公社職員として愛知電気通信工事部に勤務していたが、健康状態も良かったから、本件事故がなければ、原告公社の慣行に従い五八歳まで原告公社に勤続し得たはずであり、事故当時本給一一万四六〇〇円のほかに年末手当、時間外手当等の付加給を受けていたが、本件事故前三か年間の付加給の本給に対する割合は、七一・六六パーセントであったから、退職時まで本給のほか少なくとも本給の七一・六六パーセントの付加給の支給を受け得たものである。

亡益男の本給については、本件事故の日から退職予定の昭和五三年三月末日までの間、公社職員給与規則に従い、毎年定期昇給及びベースアップがあることが予測でき、また、同人と同時期に原告公社に入社した同学歴の職員は、本件事故の日から昭和五三年三月末日までの間に、毎年ベースアップが行われ、右定期昇給及びベースアップの結果は別表一該当欄記載のとおりの給与となったから、同人もこれと同一の給与を受け得たものということができ、右給与からその三割を生活費として控除して、右期間中の収入につきホフマン方式により年五分の中間利息を控除して本件事故当時の現価を算定すると九二四万〇三六四円となり、これが亡益男の給与関係の逸失利益である。

ロ 退職金に関する逸失利益

亡益男が本件事故によって死亡し、原告公社を除く原告ら四名は、相続人として原告公社から亡益男の退職金として七五〇万三一七五円を受領したが、亡益男が本件事故にあうことなく昭和五三年三月末日まで勤続して退職したならば、その退職金の額は一三六八万八一八一円となるから、右予想退職金についてホフマン方式により年五分の中間利息を控除して、本件事故当時における現価を算定すると、一〇九五万〇五四四円となり、この金額から前記現実に受領した退職金を差し引いた三四四万七三六九円が亡益男の退職金に関する逸失利益である。

ハ 退職後六三歳に至る間の逸失利益

亡益男は、原告会社退職後の昭和五三年四月一日以降六三歳になる昭和五八年三月末日までの五年間は、原告公社以外の職場で就労することができたが、その間同人は、年間別表一の同人の退職前一年間の給与の七割の収入を挙げ得たはずであり、これからその三割を生活費として控除し、右五年間の得べかりし利益につき、ホフマン方式により年五分の中間利息を控除して本件事故当時の現価を算定すると、その額は七〇五万一一四三円となり、これが同人の退職後の逸失利益である。

ニ 退職年金に関する逸失利益

亡益男は前記のとおり本件事故当時五三歳五月であり、昭和四六年簡易生命表によれば男子の平均寿命は七〇歳であって、同人もまた七〇歳に達するまで生存することができたものというべきであるから、公共企業体職員等共済組合法に基づき五八歳で退職する昭和五三年四月から昭和六五年までの一二年間にわたって退職年金を受給し得たはずである。しかして、同法五〇条に基づいて算定される同人の五八歳退職時に支給される退職年金は年額一六二万四七〇〇円となるので、右一二年間同額の年金を受給するものとして、その合計金額につきホフマン方式により年五分の中間利息を控除して本件事故当時の現価を算定すると一二五三万〇六六一円となる。しかるところ、原告ヒラ子は、亡益男の妻として同法五八条に基づき別表二の年金額欄記載のとおりの遺族年金を受給しまたは受給する見込みであり、原告ヒラ子が現実に受領した年金及び亡益男が生存し得た昭和六五年三月末までに受給すべき年金についてホフマン方式により年五分の中間利息を控除して本件事故当時の現価を算定すると八〇二万〇七二二円となるから、前記一二五三万〇六六一円から右八〇二万〇七二二円を差し引いた四五〇万九九三九円が亡益男の退職年金に関する逸失利益ということになる。

(3) 慰謝料

亡益男が本件事故によって被った精神的苦痛を慰謝するに足る金員としては一〇〇〇万円が相当である。

よって亡益男が本件事故によって被った損害額は(1)のイロ及び(2)のイないし二、(3)の金額の合計三四六八万四四一五円となり、同人は右同額の損害賠償請求権を取得した。

(二) 相続

原告ヒラ子は亡益男の妻、原告法康、同直子、同美保子はいずれも同人の子であるから、亡益男の死亡により、相続人として法定相続分の割合に従い前記亡益男の損害賠償請求権を取得したが、その金額は原告ヒラ子が前記金額の三分の一である一一五六万一四七一円、その余の原告ら三名が各自その九分の二である七七〇万七六四八円である。

(三) 原告ヒラ子の遺族年金に関する固有の損害

原告ヒラ子は大正一五年五月二七日生れであり、昭和四六年簡易生命表によれば、女子の平均寿命は七五歳であるから、同原告は七五歳まで生存することができ、亡益男が生存していたならば、同人が七〇歳に達する昭和六五年三月末には、原告ヒラ子はいまだ一〇年の余命を残していることになり、その時点で亡益男が死亡すると、その後一〇年間遺族年金を受給することになるところ、右の期間中の遺族年金の金額は、公共企業体職員等共済組合法五八条二項三号によって、亡益男が七〇歳となるまでの一年間に受給したはずの退職年金の年額の二分の一と定められているから、同人の退職年金の年額は少なくとも前記五八歳退職時の金額一六二万四七〇〇円を下らないはずであり、原告ヒラ子はその二分の一の八一万二三五〇円を一〇年間にわたって受給することになるから、その間の年金につきホフマン方式により年五分の中間利息を控除して本件事故当時における現価を算定すると三八四万〇三八四円となるところ、原告ヒラ子は現実には前記のとおり年額七五万二八〇〇円の遺族年金を受領しており、これをもとに右同様ホフマン方式によって右一〇年間に受給する年金の本件事故当時における現価を算定すると三五五万八八六二円となるから、前記三八四万〇三八四円から右金額を差し引いた二八万一五二二円が、原告ヒラ子が本件事故により被った遺族年金に関する固有の損害ということになる。

(四) 弁護士費用

原告公社を除くその余の原告らは以上のとおり損害を被ったが被告らが任意の弁済に応じないので、弁護士たる右原告ら訴訟代理人に本件訴訟の提起及びその追行を委任したが、これに要する費用のうち本件事故と相当因果関係を有する損害というべきものは原告ヒラ子につき九〇万円、同法康、同直子、同美保子につき各自六〇万円が相当である。

4  損害の填補

よって、原告ヒラ子の損害額は一二七四万二九九三円、同法康、同直子、同美保子のそれはそれぞれ八三〇万七六四八円となるところ、原告ヒラ子、同法康、同直子、同美保子は原告公社より葬儀費用四三万一六〇〇円及び治療関係費四〇〇〇円を受領し、自動車損害賠償保障保険(以下「自賠責保険」という。)より保険金五〇〇万円を受領し、原告ヒラ子は右のほかに原告公社より災害による遺族補償金五三九万五〇〇〇円を受領しているので、右のうち原告らが共同して受領した分については相続分に応じて分割し(原告ヒラ子については一八一万一八六七円、その余の原告ら三名については各自一二〇万七九一一円)、これを右原告らの損害額から控除し、遺族補償金については原告ヒラ子の損害額から控除すると、原告ら各自の請求し得べき損害賠償請求権の金額は、次のとおり原告ヒラ子が五五三万六一二六円、その余の右原告ら三名が各七〇九万九七三七円となる。

5  原告公社の損害賠償請求権

(一) 原告公社は本件事故が亡益男の原告公社業務執行中に発生したものであったから、公社職員業務災害補償規則に基づき、原告ヒラ子に対し遺族補償金五三九万五〇〇〇円を、原告公社を除くその余の原告ら四名に対して葬儀費四三万一六〇〇円及び医療関係費四〇〇〇円を支払ったので、同規則五条一項に基づき被告らに対する求償権が発生した。

(二) 弁護士費用

原告公社は、被告らに対する本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人に委任し、手数料として一二万円、謝金として一二万円合計二四万円を支払うことを約した。

よって、原告公社の損害額は合計六〇七万〇六〇〇円である。

6  よって、原告らは被告両名に対し、本件事故による損害賠償金として、原告ヒラ子については金五五三万六一二六円、同法康、同直子、同美保子については各金七〇九万九七三七円及びこれに対する本件事故の日である昭和四八年九月三日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告公社については金六〇七万〇六〇〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和五〇年一二月四日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実はいずれも認める。

2  同2(一)のうち本件事故現場の道路状況が原告ら主張のとおりであることは認め、被告夏目の過失については争う。同(二)の事実については、被告会社が被告車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたことは認める。

3  同3の事実については、いずれも知らない。

4  同4の事実のうち、原告ヒラ子ら四名が自賠責保険より五〇〇万円を受領したことは認め、その余の事実は知らない。

5  同5の事実は知らない。

三  被告会社の抗弁

被告会社及び被告夏目は、被告車の運行に関し何ら注意を怠っておらず、本件事故はもっぱら原告車を運転していた亡益男の一方的過失に基づくものである。すなわち、本件事故現場は、道路の幅員が狭く、道路脇から桑の葉が道路内に覆いかぶさって、道路の有効幅員は更に狭くなっていて、原告車及び被告車は徐行しても無事すれ違うことのできない状況であったから、事故を防止するには、早期に対向車を発見して、一方が停車してすれ違うほかなかったのであるが、被告夏目は十分に減速して対向車の発見に努めていたのに、亡益男は原告車を時速七〇ないし八〇キロの高速で走行させていたため、被告車を発見しようやく制動措置をとり得たのみでハンドルを適切に操作することができず、一直線に走行し、そのうえ衝突地点直前で右方向にハンドルを切ったため、左方向にハンドルを切って衝突を回避しようとした被告車の前面に出て来て衝突したものである。

さらに、被告車には、本件事故と関連を有する構造上の欠陥も機能の障害もなかった。

四  抗弁に対する認否

被告らの抗弁事実はいずれも争う。

第三証拠《省略》

理由

(事故の発生及び責任原因)

一  請求原因1の事実及び同2の(一)の事実中、本件事故現場の道路幅が約四メートル、衝突地点付近で幅員が約五・三メートルあり、道路が被告車からみて右方にカーブしているうえ、本件事故当時、道路右側は桑の葉が覆いかぶさっている状態であったことについては当事者間に争いがなく、右争いのない事実に《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、本件衝突地点を中心にして、西南方向から東方向に走る道路で、衝突地点付近において半径約五〇メートルのカーブを画き、東方に向って約一〇〇分の一メートルの上り勾配となった舗装道路であり、同方向に向って右側には道路に接して桑畑があり、右桑の木の高さは三・四メートルあり、その梢部分は道路端から一・五メートル幅にわたって路上に覆いかぶさっていて、前方の見とおしは不良であり、また、右道路には速度制限の規制はなく、センターラインの標示もなく、交通量は少ない道路である。

2  被告夏目は被告車(積荷なし、車幅は二・一〇メートル)を時速約四〇キロメートルで運転し、道路中央より右側に出て本件事故現場にさしかかり、前方道路が右側にカーブしていて見とおしが悪かったのに、警笛を一、二度軽く鳴らしただけで、徐行することもなく進行を続けていたところ、自己の前方約二三メートルの地点に原告車が対向して進行してくるのを認め、急停止の処置をとるとともにハンドルを左に切ってこれとの衝突を避けようとしたが間に合わず、右発見地点から約一〇・九メートル進んで原告車と衝突し、その反動で被告車は一・六メートル後退して停止した。

3  亡益男は原告車(車幅一・二九五メートル)を運転して前記道路を東から本件事故現場に向って時速約四〇キロメートルで走行し、被告夏目が原告車を発見したのとほぼ同時に被告車を発見して制動措置をとったが、被告車との衝突を回避することができず、自車の前部中央部を被告車の右側前部に衝突せしめ、その反動で原告車は三・一メートル後退して停止し、亡益男はその場で死亡するに至った。

以上の事実を認めることができる。

被告らはこの点に関して、亡益男が高速で走行していてハンドル操作をあやまり、原告車が被告車の回避した方向に出てきて衝突した旨主張し、《証拠省略》中には右主張に沿うような部分があるが、右は前記認定の各証拠に照らしてにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、本件事故現場は、道路幅が狭いうえ、被告車の進行方向からみて右側にカーブしていて前方の見とおしは十分にきかないのであるから、自動車の運転手としては、対向して来る車両のあることを慮り、自車を道路左側に寄せるとともに、徐行して進行すべき義務があるのに、被告夏目はこれを怠ったものというべきであるから、被告夏目に過失があることは明らかであるが、亡益男もまた対向車があろう等とは予期せず、漫然と走行していたものと認められるので、同人に過失があったものというべきであり、後記被告らの損害賠償の額を定めるについてはこれを斟酌するのが相当であり、その過失割合は四割とするのが相当である。

そうすると、被告夏目は民法七〇九条に基づき、本件事故によって生じた損害を賠償すべき義務があり、被告会社が被告車を保有し、これを自己の運行の用に供していたことは、当事者間に争いがなく、被告夏目に前記のとおりの過失が認められる以上、進んで被告会社の免責の抗弁につき検討するまでもなく、被告会社は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故によって生じた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

(損害)

二 そこで、原告公社を除く原告ら四名の被った損害につき検討する。

1  亡益男の被った損害

(一)  葬儀費及び医療関係費

《証拠省略》によれば、亡益男の死亡に伴い、その葬儀がとり行なわれ、その費用として四三万一六〇〇円を下らない金員が支出されたこと、亡益男の死亡診断書料等の医療関係費として四〇〇〇円が支出されたことが認められ、亡益男の年齢、社会的地位等に鑑み葬儀費については、そのうち三〇万円をもって本件事故と相当因果関係の有る損害と認めるので三〇万四〇〇〇円の冒頭掲記の損害となる。

(二)  六三歳までの逸失利益

《証拠省略》を総合すると、亡益男は、事故当時五三歳の(大正九年三月一一日生)の健康な男子で、原告公社職員として愛知電気通信部に勤務していたが、公社職員は満五八歳に達すると退職する慣行となっていたこと、同人は企画職二級の職員であって、本給として本件事故当時月間一一万二二〇〇円の基本給と二四〇〇円の基本給加算給を得ていたが、なお本給のほかに年末手当、時間外手当等の付加給があり、事故前三年間の本給分及び付加給分はそれぞれ昭和四五年が八八万七一〇〇円と五七万六五四〇円、昭和四六年が一〇二万六〇〇〇円と七一万四四七六円、昭和四七年が一一六万六一〇〇円と九三万七〇八七円であって、その付加給の本給に対する割合は、平均七一・六六パーセントであったこと、公社職員の本給については毎年四月に定期昇給及びベースアップが行なわれ、事故の日から同人が満五八歳に達する昭和五三年三月末日までの間に、同人と同時期に入社した同学歴の職員は、毎年定期昇給及びベースアップが行なわれ、各年度に別表一の本給欄記載のとおりの給与を得ていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、亡益男は各年度別表一の本給欄記載のとおりの給与のほか、付加給として前記と同じ割合の同表付加給欄記載のとおりの給与が支給されたものと認むべきであり、退職後の昭和五三年四月から稼働可能と認められる昭和五七年三月末までの四年間は、同表昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までの年収四〇一万八九〇三円の七割の収入を挙げ得たものと認めるのが相当である。そして、亡益男の生活費は収入の三割と考えられるから、同人の死亡による逸失利益につきホフマン方式により年五分の中間利息を控除して、本件事故当時における現価を算定すると別表一の現価欄記載のとおりとなり、同人の五八歳退職時までの逸失利益は九二四万〇三五九円、退職後六三歳までの逸失利益は七〇五万一一三九円となる。

(三)  退職金に関する損害

《証拠省略》を総合すると、亡益男は、死亡時に七五〇万三一七五円の退職金を支給されたが、同人が五八歳まで勤続したと仮定した場合、退職手当算定の基礎となる基本給は二〇万〇六〇〇円、勤続年数は三六年八月であって、同人の退職金の額は法令上一三六八万八一八一円となることが認められ、右事実によれば、本件事故がなかったならば、同人は右退職時に同額の退職金が得られたものと認むべきであり、右金額につきホフマン方式により年五分の中間利息を控除して本件事故当時における現価を算定すると次の算式どおり一〇九五万〇五四四円となるところ、原告らにおいて自認するとおりすでに七五〇万三一七五円を受領しているから、これを差し引いた三四四万七三六九円が、同人の退職金に関する損害となる。

13,688,181×0.8000(ホフマン係数)=10,950,544

(四)  退職年金に関する損害

当裁判所に顕著な昭和四六年簡易生命表によれば、男子の平均寿命は七〇年であることが認められるから、亡益男は少なくとも事故時から一七年間(昭和六五年まで)生存し得たものと推定され、《証拠省略》によれば、同人は、公共企業体等共済組合法五〇条に基づき、五八歳で退職したその時点から年額一六二万四七〇〇円の退職年金を受けることができ、退職時から七〇歳になるまでの一二年間、毎年少なくとも右金額と同額の退職年金を受給し得たものであること、他方、同人が本件事故により死亡したことによって、その妻である原告ヒラ子は同法五八条に基づき、事故時から昭和五三年三月末日まで別表二記載のとおりの遺族年金を受給し、同年四月一日以降昭和六五年三月末まで毎年少なくとも七五万二八〇〇円ずつ遺族年金を受給し得たものであることが認められる。

ところで、遺族年金は、厳密な意味では退職年金に代わるものではないけれども、退職年金の受給権者が死亡した場合に、初めてその遺族に法定の優先順位に従って支給されるものであり、その金額も退職年金を基準にして定められること等を考慮すると、損益相殺の趣旨を類推して、これを退職年金に関する損害から控除するのが相当である。したがって、次の算式どおり亡益男が受給すべきであった各年度の年金から三割の生活費を控除した金額につき、ホフマン方式により年五分の中間利息を控除した本件事故当時の現価は八七七万一四六二円となり、右金員から、原告ヒラ子が昭和六五年三月末日までに受給し、または受給すべき年金につきホフマン方式により年五分の中間利息を控除した本件事故当時の現価八〇二万〇七二二円を差し引いた八五万〇七四〇円が亡益男の退職年金に関する損害ということになる。

1,624,700×(1-0.3)=1,137,290

1,137,290×(12.0769-4.3643)=8,771,462

(五)  慰謝料

本件事故の態様、事故当時の亡益男の年齢、その家族構成など、本件訴訟に表われた諸般の事情を考慮すると、本件事故により同人の被った精神的苦痛を慰謝するに足る金額としては五〇〇万円を相当とする。

以上説示したところによれば、亡益男が本件事故によって被った損害額は、合計二五七九万三六〇七円となる。

2  原告ヒラ子固有の遺族年金に関する損害

原告ヒラ子は大正一五年五月二七日生であること前述のとおりであり、当裁判所に顕著な昭和四六年簡易生命表によれば、女子の平均寿命は七五歳であることが認められるから、亡益男が七〇歳となる昭和六五年に、更に一〇年の余命年数を残し得たものと認められる。ところで、原告ヒラ子は右一〇年間も遺族年金を受給することは公共企業体等職員共済組合法の規定に照らし明らかであるが、同法五八条二項三号によれば、遺族年金の年額は亡益男が死亡した年次に受給し得た退職年金の年額の二分の一と定められており、したがって、亡益男が本件事故にあうことなく七〇歳で死亡したならば、同人は少なくとも前認定の五八歳の退職予定時に受給すべきであった退職年金と同額の一六二万四七〇〇円の年金を受給し得たはずであるから、原告ヒラ子は右一〇年間右亡益男の年金の年額の二分の一の八一万二三五〇円の遺族年金を受給し得たはずであり、右一〇年間に受給し得べきであった年金につき、ホフマン方式により年五分の中間利息を控除して本件事故当時における現価を算定すると次式のとおり三八四万〇三八四円となる。

812,350×(16.8044-12.0769)=3,840,384

他方、亡益男が本件事故によって死亡したため、原告ヒラ子が現実に受給している遺族年金の年額は、前記のとおり七五万二八〇〇円であるから、昭和六五年以降の一〇年毎年少なくとも右と同一金額の年金を受給するものと予測され、右一〇年間に受給すべき年金について、ホフマン方式により年五分の中間利息を控除して本件事故当時における現価を算定すると次式のとおり三五五万八八六二円となる

752,800×(16.8044-12.0769)=3,558,862

そして、右両金額の差額二八万一五二二円が、本件事故と相当因果関係を有する原告ヒラ子固有の遺族年金に関する損害というべきである。

3  相続関係、過失相殺及び損害の填補

《証拠省略》によれば、原告ヒラ子は亡益男の妻、原告法康、同直子、同美保子の三名は亡益男の子であることが認められるから、同人の死亡により右原告らはそれぞれ法定相続分に従って前主の地位を承継したものと認むべきである。

しかして、原告ヒラ子が原告公社から遺族補償金五三九万五〇〇〇円を受領したことは、原告ヒラ子の自認するところであるから、これを原告ヒラ子の損害額八八七万九三九一円(亡益男の分につき三分の一を含む)から控除すると、原告ヒラ子の損害額は三四八万四三九一円となり、原告法康、同直子、同美保子の三名のそれはそれぞれ五七三万一九一二円(亡益男の分の九分の二を含む)がその損害額となり、さらに、これに前記四割の過失相殺をすると各自の損害額は、原告ヒラ子が二〇九万〇六三四円、原告法康、同直子、同美保子の三名がそれぞれ三四三万九一四七円となる。

ところで、右原告四名が亡益男の共同相続人として、原告公社から葬儀費四三万一六〇〇円及び医療関係費四〇〇〇円の填補を受けたこと、及び自賠責保険から金五〇〇万円を受領(各自の相続分に従って原告ヒラ子につき一八一万一八六七円、その余の原告ら三名につきそれぞれ一二〇万七九一一円)したことは右原告らの自認するところであるから、これを各自の損害額から控除すると、原告ヒラ子の損害額は二七万八七六七円、その余の原告三名のそれは各二二三万一二三六円となる。

4  弁護士費用

右原告ら四名が、本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、本件訴訟の内容、経過、原告らの請求の認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用としては、原告ヒラ子につき三万円、原告法康、同直子、同美保子につきそれぞれ二〇万円をもって相当とする。

5  よって、原告ヒラ子は三〇万八七六七円、原告法康、同直子、同美保子はそれぞれ二四三万一二三六円を本件事故に基づく損害賠償として被告らに請求することができる。

三 次に、原告公社の請求につき検討する。

1  亡益男が本件事故当時原告公社の業務に従事していたことは、前記認定のとおりであり、《証拠省略》によると、原告公社が公社職員業務災害補償規則に基づき、原告ヒラ子に対し昭和四八年一一月五日遺族補償金として亡益男の平均給与日額五三九五円の一〇〇〇日分三九万五〇〇〇円、葬儀費四三万一六〇〇円及び医療関係費四〇〇〇円右合計五八三万〇六〇〇円を支払ったことが認められる。

そして、原告ヒラ子が被告らに対し損害賠償請求権を有することは前記説示するところによって明らかであるから、原告公社は、右に補償した価額の限度において損害賠償請求権を代位取得したものということができ、前記加害者側の四割の過失割合を考慮すると、原告公社が被告らに請求し得る金額は、三四九万八三六〇円となる。

2  弁護士費用を請求する点については、原告公社が損害賠償者の代位権を取得したことによって、当然に被告らに対する弁護士費用請求権が発生するものではなく、他に右費用請求権を理由あらしめるに足る事実の主張、立証もないので、右金員の支払請求は理由がない。

(結論)

四 以上のとおりであって、被告らに対し本件事故に基づく損害賠償を求める原告らの本訴請求は、原告小島ヒラ子については金三〇万八七六七円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和四八年九月三日以降支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告小島法康、同小島直子及び同丸山美保子については金二四三万一二三六円及びこれに対する右同日以降支払い済みに至るまで右同率の遅延損害金の各支払いを、原告日本電信電話公社については金三四九万八三六〇円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかである昭和五〇年一二月四日以降支払い済みに至るまで右同率の遅延損害金の各支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白川芳澄 裁判官 成田喜達 黒木辰芳)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例